公益財団法人 内視鏡医学研究振興財団

東邦大学医療センター大森病院　消化器センター外科　名誉教授
金子　弘真先生

この度の顕彰受賞は身に余る光栄でございます。
私が手掛けた手術は腹腔鏡下肝切除術です。腹腔鏡下手術は1987年に胆嚢摘出術に始まり、その後様々な臓器に内視鏡手術は応用されてきました。しかし、肝臓はその解剖学的特性や易出血性臓器として腹腔鏡手術は敬遠されていました。1993年に国内初の肝臓の辺縁の腫瘍に腹腔鏡下切除は可能と考え施行し、術後経過は良好で侵襲も経度でありました。当時の肝臓外科重鎮の先生方からは厳しいご指摘も頂きましたが、内視鏡手術器具の発展と共に部位によってはその適応も拡大され比較的安全に行えました。
1996年に11例の経験からその手術手技を中心にSurgeryに投稿し、1998年には英語教科書Current Surgical Therapyに腹腔鏡下肝臓切除術を始めて紹介しました。
その後も患者さんにとって低侵襲な術式と考え、積極的に本手術の普及に勤めました。2007年には肝臓内視鏡外科研究会を発足し、2009年にはハンズオンセミナーも開始しました。本セミナーは現在までに40回以上開催し１回のセミナーで約30名が参加、延べ1000人以上の外科医がこのセミナーから手術手技を学ぶことができました。そして、腹腔鏡下肝部分切除や外側区域切除は保険収載されるに至りました。
　ところが2014年11月14日、ある大学病院で起こった本術式の適応の拡大と手術手技上の問題による患者死亡報道で状況は一変し、世間から逆風に晒される術式となってしまいました。
ただ本術式はしっかりとした手術手技を取得し適応を順守することにより患者さんに有効な低侵襲手術となりえると考えていました。そこで、肝臓内視鏡外科研究会が中心となって同手術の正しい評価と安心・安全な普及を目的に透明性が高くエビデンスを求めるうえで極めて有効な手法と考えられた、全症例の術前前向き登録制度を全国の肝胆膵外科医の協力を得て開始しました。その結果、約3年間で9000例以上の登録があり手術死亡率はいずれの術式も1.0％以下と極めて低いものであったことから、すべての術式が保険収載されることになり、現在では肝臓切除の約40%がこの腹腔鏡下肝臓切除術になっています。
この働きにより内視鏡の分野で顕彰を頂けることは誠に光栄であり、改めてご協力いただいた日本の肝胆膵外科医に感謝します。この度は誠にありがとうございました。

関西医科大学附属病院　病院長
松田　公志先生

　この度、伝統ある公益財団法人　内視鏡医学研究振興財団顕彰受賞の栄に浴しましたこと、浅学非才の私にとって身に余る光栄であります。 財団理事長　五十嵐　良典　先生　はじめ、理事、評議員、選考委員、関係者の皆様に心からお礼申し上げます。

　 私は1978年に京都大学を卒業、すぐに膀胱がん研究の権威、恩師　吉田　修教授が主宰されていた京都大学医学部泌尿器科学講座に入局しました。当時すでに膀胱鏡がありましたので、すぐに内視鏡医学の道へというようなこともあり得たのかもしれませんが、実際には私は赴任先の大阪赤十字病院で、先輩方があまり好まれない男性不妊症患者を専門とするようになりました。
様々な珍しい患者さんに遭遇する中で、染色体転座と男性不妊症の関係に興味を抱き、最終的に3本の英文論文を合わせて「男性不妊症と染色体異常の研究」として1990年に京都大学から医学博士の学位をいただきました。

　 今回の顕彰につながる腹腔鏡手術との出会いは、1989年秋に、吉田先生から「松田君、腹腔鏡手術を知っとるかね？」と聞かれた時でした。幸い1984年の日本不妊学会の時に、Kiel大学産婦人科Kurt Semm教授の特別講演で、200枚以上のスライドを見た記憶があり、「腹腔鏡手術なら知ってます。」と吉田先生に答えることができました。それを聞かれた吉田先生は、「では、君は不妊のほうで顕微鏡を使って精管をつないだり、細かなことが得意のようだから、腹腔鏡をやり給え。まずは不妊症の精索静脈瘤手術を腹腔鏡でやってはどうか。」とご指示をいただきました。
この恩師の一言が、その後の私の人生を劇的に変え、今日の顕彰に繋がっていくのであります。
また、不妊症から腹腔鏡へとつながるのも、何とも運命的でした。
後に自ら関西医科大学腎泌尿器外科の主任教授になってから、このように部下の人生を変えるような指示を出せたのかどうか、じっと手を見る毎日でした。

準備にいろいろと苦労しましたが、1990年2月にわが国で最初の腹腔鏡下精索静脈瘤手術を完遂することができました。1991年に関西医科大学に准教授として赴任後は、同級生で東海大学名誉教授の 寺地 敏郎先生を盟友とし、名古屋大学並びに淑徳大学　元教授の故 小野佳成先生のお力も得て、様々な泌尿器腹腔鏡手術の開発普及、さらに術式の標準化、泌尿器腹腔鏡技術認定制度開始の2004年と続いていきました。
さらにダ・ヴィンチの登場と、外科手術体系が開放手術から低侵襲内視鏡外科、さらにロボット支援手術へと急速に変革していった時代の只中を、現役として生き抜いてくることができたのは、実にエキサイティングで恵まれた、 泌尿器外科医としての30年間でした。

この間、泌尿器科学の先輩である、杏林大学名誉教授・名誉病院長の東原　英二先生、　名古屋大学名誉教授・国立長寿医療センター名誉総長の大島　伸一先生九州大学名誉教授の内藤　誠二先生、さらに大先輩で敬愛する東京医科大学名誉教授の三木　誠先生、また大分大学学長の北野　正剛先生など、ご指導いただいた多くの先生方に心から感謝申し上げます。
そして、これまで挙げたすべての先生方と恩師の吉田 修先生も受賞されたこの顕彰を、25番目の泌尿器科医としていただくことに、深い感慨を抱き、改めて感謝申し上げます。

私は、1997年から2023年まで、27年間の長きにわたり本財団の選考委員、評議員、理事のご指名をいただき、諸先輩の先生方のご指導の下に努めることができました。
その間、内視鏡医学研究振興のための本財団の活動をつぶさに拝見してきましたが、研究助成、海外研究医受け入れ助成、顕彰、で始まった研究助成制度は、その後、多施設共同研究助成、海外短期留学助成、研究会助成、国際学会に参加する研究医への助成と、年々助成の種類と規模を充実させてきました。
本財団が、今後もわが国の内視鏡医学研究振興を図られるべくご発展されることを祈念申し上げ、私のお礼の挨拶とさせていただきます。
ありがとうございました。

令和7年2月1日　関西医科大学附属病院・病院長　松田公志

東京慈恵会医科大学 客員教授
森川　利昭先生

この度はこのような名誉ある賞を頂き誠にありがとうございます。
私は呼吸器外科医を45年務めてまいりました。
私と内視鏡のつながりは大きく３つあります。
1つ目は卒後3年目に国立がんセンターにレジデントとして赴任した時、世界に先駆けて気管支内視鏡を開発された池田茂人先生に直接ご指導をいただけたことです。世界の先達のお考えや行動に大いにインスパイアされました。その後は外科医として気管支鏡を積極的に応用し、安全な手術を行うことができました。
2つ目は胸腔鏡手術とのかかわりです。1990年代、ラパコレが始まった後に小さいステイプラーが開発され胸腔鏡手術が可能な環境が整いました。しかし大病院はどこもチャレンジしませんでした。私は札幌の民間病院に勤務していたのですが、大変興味を持ち、ただ一人でこの手術を一から始めました。分からない事ばかりでしたが、試行錯誤を重ね、従来の負担の大きい開胸手術のほとんどを、侵襲の少ない胸腔鏡手術に置き換えることができました。その後移動した北海道大学時代を含めて10年あまりで自分なりの胸腔鏡手術を完成させることができました。胸腔鏡手術では医療機器の占める役割が大きく、自分でも様々な医療機器や手技を開発することになりました。これはその後医工連携を学会活動として進める動機づけになりました。
3つ目ですが、私は2018年に東京慈恵会医科大学を退任しました。その頃、たった一つの術創でおこなう単孔式胸腔鏡手術が出現していました。実際に見て、この手術がアクロバット的なものではなく、きちんとしたロジックのある優れた手術と理解しました。私自身が胸腔鏡手術の開発で苦労したことから、実際に手術を進める若手外科医をエンカレッジしサポートするために、単孔式胸腔鏡手術研究会（JUVIG）を立ち上げ、安全で安心な単孔式胸腔鏡手術の発展と普及に努めてきました。
振り返ってみますと内視鏡と共に歩んだ外科医人生であったと思います。そろそろ外科医を卒業しようと思っている折に、このような顕彰を頂く事になり大変光栄に存じております。
この度はどうもありがとうございました。

京都第二赤十字病院　消化器内科
安田　健治朗先生

この度は、内視鏡医学研究財団の顕彰をいただき誠にありがとうございました。財団理事長の五十嵐良典先生、並びに関係の皆さまに熱く御礼申し上げます。
私は、1978年に京都府立医科大学を卒業後、川井啓市先生主宰の公衆衛生教室に入局し、京都市立病院で内科研修医、修練医として3年間内科医として研修しました。その後、1981年に故中島正継先生のおられた、琵琶湖胃腸病院で消化器内科の研修を始めました。恵まれたことに、上部内視鏡、ERCPを中心とした胆膵内視鏡を中島先生に教えていただくという、贅沢な環境で消化器内視鏡の研修が始まりました。また、当時、腹部超音波検査が普及し始めた時期で、内視鏡の研修に加え、腹部超音波検査も始めることになりました。内視鏡医は多いのですが、超音波検査の経験者はおらずに、小さな病院でしたので、全てのUS検査を担当することになりました。教室の研究会でUS検査による消化管病変の診断を話したところ、教室の川井教授から、USをやっているなら、超音波内視鏡の試作機が京都第一日赤にあり、教室の先輩がやっているからお手伝いをしておいでと言われ、週1回、京都第一日赤に行くことになりました。これが超音波内視鏡を始めた契機になりました。2年後、先に中島先生が移っておられた、京都第二赤十字病院消化器内科に移動になりましたが、第一日赤の先輩が、それなら超音波内視鏡も第二日赤で連れていけと言われ、超音波内視鏡との40年近くになる長い付き合いが始まりました。
京都第二赤十字病院では、上部消化管、肝胆膵の診療や検査に加え、EUSの臨床に携わりました。特にEUSでは、機器の改良過程に参加でき、EUSの胆膵だけでなく消化管での臨床応用を論文にすることができました。海外での学会や講演、海外からの内視鏡医の来院など、内視鏡医として充実した生活をさせていただきました。改めて、故川井啓市教授、中島正継先生をはじめとする京都第二赤十字病院消化器内科の同僚、スタッフの皆さまに感謝いたします。また、かつて、超音波BUと言われた頃からの八王子の超音波内視鏡開発の皆さま、EUSのカタログ作成をご一緒させていただいた駿河台、龍名館の皆さま、海外での発表や講演にご協力いただきました新宿サンエービル第3営業の皆さま、ビデオ作製をお願いした幡ヶ谷の映像チームの皆さまに感謝いたします。
若い先生方の内視鏡に関する研究も、昔に比べ、いろいろと制約があると思いますが、興味のあることを続けることで成果がえられると思います。
最後になりますが、本財団が我が国の内視鏡医学の研究、発展に益々寄与することを念じてご挨拶とさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。