公益財団法人 内視鏡医学研究振興財団

がん研有明病院　下部消化管内科　顧問
五十嵐　正広先生

この度は、由緒ある内視鏡振興財団の顕彰を賜り誠にありがとうございます。身に余る光栄であり、関係各位に感謝申し上げます。私が内視鏡に携わることになったのは、1977年北里大学医学部初代教授であった岡部内科入局後、山形県立中央病院に出向し研修医にもかかわらず上部、下部、胆膵の内視鏡検査を多数経験させていただきました。当時から大腸に興味がありましたが、当時下部消化管分野での画像診断は、注腸造影が主で大腸内視鏡は特別な検査としての位置づけでした。盲腸への挿入もままならず学会でも盲腸挿入率や挿入時間を競う時代でした。内視鏡もファイバースコープで術者のみが観察できるものでした。その数年後、腸管洗浄液の開発、ビデオスコープの開発、さらに現在の電子スコープシステムとなり飛躍的に器機は進歩・発展し、挿入技術も向上して誰もが比較的容易に全大腸内視鏡観察ができる時代となっております。治療の面でもポリペクトミーからEMR、ESDと新しい手技が開発され、治療手技の選択肢も増え感慨深いものがあります。私は約45年の間にスコープの開発をはじめ、拡大内視鏡診断、色素内視鏡診断、大腸ポリープや大腸早期がんの診断・治療、炎症性腸疾患の診断・治療などに様々な形で関与させていただき充実した内視鏡ライフを経験させていただきました。その内視鏡診療の活動が今回評価されたものと思っております。今後も微力ながら消化管内視鏡分野に貢献できればと思っております。内視鏡医療の益々の発展を祈念し挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

国立国際医療研究センター国府台病院　名誉院長
上村　直実先生

この度は名誉ある賞を頂き、身に余る光栄でございます。
五十嵐理事長、財団の関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。
私は広島大学を卒業して45年になります。
8年間の大学での研修の後、ファイバースコープの創始者と言われるアラバマのハーシュビッツ先生の元で動物実験を中心に2年間留学をしていました。
帰国後は呉共済病院でピロリ菌と胃がんの関係について臨床研究を行ったのですが、これも広島大学消化器内科の先輩の方々のおかげでした。
ちなみにJGES現理事長の田中信治先生も広島大学ですが、田中先生が若い頃の内視鏡診断学に対する熱い情熱にはびっくりしていました。それが今となって花開いたな…と感じています。
一方、私は内視鏡を用いて背景胃粘膜の観察から胃がんや十二指腸潰瘍とピロリ菌の関連について研究してきました。
22年前東京の国際医療センターに移ってからは上西先生や三木先生をはじめとする内視鏡学会の先生方に大変お世話になりました。この場をお借りして感謝申し上げます。
現在はリタイヤした身でありますが、まだ分からない事もあるのでもう少し好奇心を持ち続けたいと思っています。
最後に、この財団は長年にわたり我が国の臨床研究や若手医師の研鑽に対して多くのサポートをしています。内視鏡財団が益々発展する事を祈念して挨拶とさせて頂きます。

兵庫医科大学　名誉教授
中野　孝司先生

本日は光栄にも本財団の顕彰を頂き有難うございます。 はじめに、財団役員の先生方、財団関係の皆様方、そしてここに御臨席の先生方に厚く御礼を申し上げます。そして今まで研究を支えて頂いた先生方に心より御礼を申し上げます。
私が今まで行って参りました研究の一部をお話し申し上げ、御礼の挨拶に替えさせて頂きたいと存じます。私は呼吸器内科医ですので、私の領域の内視鏡学は気管支鏡、胸腔鏡、そして縦隔鏡を用いた臨床医学です。私は胸腔鏡に興味を持ちました。何故かと申しますと、中皮細胞の持つ不思議なバイオロジーに若い頃にとり憑かれたからです。本当に面白い細胞なんです。胸腔鏡で胸腔に入りますと、表層が一層の中皮細胞で覆われた胸膜を見ることができます。胸膜には肺を覆う臓側胸膜と胸腔内面を覆う壁側胸膜がありますが、その表層に中皮細胞が一列に並んでいます。腹膜や心膜も同じなのですが、中皮細胞が覆う面積はかなり広くて、全体では体表面積の数倍の広さになります。中皮細胞は分裂像のない非常におとなしい細胞なのですが、炎症などで中皮細胞層から脱落しますと、体腔液中に浮遊する細胞になります。そうすると、おとなしかった細胞の顔つきが非常に悪くなり、がん細胞と区別がつかなくなります。肺がんは細胞診で診断します。しかし、中皮細胞の良悪の判断は細胞診では不可能です。中皮細胞はアスベスト繊維の吸入でがん化することが多いのですが、気道から吸入されたアスベスト繊維が最初に出会う中皮細胞は臓側胸膜の中皮細胞です。ところが、実際には最初に影響を受けるはずの臓側胸膜の中皮細胞ががん化するのではなく、それよりも外側にある壁側胸膜の中皮細胞が最初にがん化するのです。不思議な現象です。それを初めて指摘したのがフランスのブタン(Boutin)先生です。私は４２年前に、その後、いろいろとお世話を頂くことになるシャヒニアン先生(Chahinian, New York Mount Sinai Medical Center)と一緒に、当時は非常に暗くて見えにくい胸腔鏡で、ブタン先生にそれを見せてもらいました。先生は「中皮腫は壁側胸膜に発生するんだ」と主張されました。私は「そんな事はないだろう。間違いだろう」と思っていました。しかし、その後、胸腔鏡が格段に進歩して、腔内を明るく、そして、広範囲に観察出来るようになり、同時に日本でも中皮腫が急増するようになり、早期例が発見されるようになりました。そうすると、ブタン先生が主張されていた通り、中皮細胞のがん化は、確かに壁側胸膜の中皮細胞に起こる事がはっきりしてきました。
今はこの理由を説明できるようになりました。中皮細胞間隙は比較的疎な組織で、その間隙で物質のやり取りが行われています。末梢気道でアスベスト繊維を貪食したマクロファージも中皮細胞間隙を通過して胸腔に入り、そこでアポトーシスを起こし、freeなアスベスト繊維を腔内に放出します。それが腔内のリンパの流れに沿ってリンパ管の開口部に集まります。その開口部が壁側胸膜のみにあり、そこからがん化が始まるというのが理由です。
これは研究のほんの一例です。私は中皮細胞という非常に狭い領域の研究を今まで続けてきました。大学を離れて7年になりますが、どこまでわかってきたのか、どこまで研究が進んできたのか、今でも研究論文を検索して、読ませてもらうことを楽しみにしています。
今回、このような名誉な顕彰を頂きまして有難うございました。内視鏡医学研究振興財団と、ここに御臨席頂いております先生方の研究が、今後、ますます発展する事を祈念して、お礼の言葉とさせて頂きます。有難うございました。

杏林大学医学部　名誉教授
奴田原　紀久雄先生

本日は伝統のある財団から顕彰を受ける名誉に与り、理事・評議員、関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
泌尿器科医にとって内視鏡は身近なもので、1年目から膀胱鏡に親しみました。その後上部尿路内視鏡の世界に深く関わるようになりました。
その第一歩な軟性腎盂尿管鏡の開発者でもある東京大学名誉教授の阿曽佳郎先生に直接手ほどきを受けたことでした。その後、杏林大学名誉教授の東原英二先生と共に杏林大学に移り、そこで新しい上部尿路内視鏡の開発にも携わらせて頂きました。開発の現場にお集まりになった諸先生は私より高度なテクニックをお持ちでした。その差を新しい機器の操作性でどのようにカバーするかという視点で開発に携わらせていただきました。
私が考える内視鏡の進歩とは、超絶テクニックではなく誰でも同じ成果が出せる安全で操作性の良い内視鏡が開発されていくによって達成されると思っています。この様な視点での内視鏡の開発がこれからも続くことを期待してやみません。
このように楽しく内視鏡と関わる人生を送らせて頂き、また本日のような席にお招き頂き顕彰を受けるという事に大変感謝しております。
ここにご出席の明日を担う皆様方の益々のご活躍ご発展を祈念して挨拶とさせて頂きます。